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学園に来た頃の、記憶

じゃり、と地面を踏む音に振り返る。

場所は公園。
街灯をスポットライトのように浴びて、ひとりの女性……少女、いや女性。
えっと、確か年齢的には六華より5つか6つは上。
あんまり身長は高くないから、実際の年齢より年下に見られる、らしい。
本人はそれが嫌らしい。
六華も似たような気持ちだからそれはわかる――――が、とりあえず。

「館さん? どうしましたか?」
「どうしましたか、とはこちらの台詞です。子供がこんな時間に何をしているんですか?」
「何と言われましても……21時ですから。良い子は寝る時間です」

静々と礼をして公園の奥へと消えようと。
季節的に風邪を引く事はないだろうし、今日はどうしようベンチとか。
ああでもやっぱり樹の根元は落ち着くし。

「ちょ、ちょっと待ってください、家に帰るんじゃないんですか!?」

それはきっと常識。
7歳でしかない六華に向けるには、あまりに当たり前で正しくて。
だけど、六華にとっては遠い遠い夢の話。

長い冬。
永い夜。
隔絶された眠りは、何もかもを奪い去り、忘れさせ。
今の六華には、何もない。
目覚めて数週間の、一握りの記憶。
ただ幸いなのは六華にとってそれが常識で辛くも悲しくもない事か。

「家は、ないです。家族も、何もかも。六華にあるのは、この身ひとつですから」
「……そう、ですか。わかりました、細氷さん。じゃあ、家に来てください」
「お断りします。六華は今に不満ありませんし、ご迷惑をかけるのも嫌ですし」

これが普通だから、別に多くを望まない。
人との関わりが嫌いなわけではない。
結社で色々な人と喋ったりするのは楽しいけれど、でも何だろう。
壁。
あまり踏み込まず、適度な距離がいいのだと心が訴えかけてくる。
だから、別にいい。

「大丈夫ですよ。これでも来訪者ですし、能力者ですから。貴女も早く帰ると良いかと」
「ええ、そうですね。帰ることにします。細氷さんと一緒に――――力ずくで、ね」
「……え?」
「はい、帰りましょうねー」

衝撃が、胸から背中へと突き抜けた。
いつの間に近づかれたのか。
知り合いだから油断したのか。
ず、と骨と骨の隙間を縫うようにして肺へと打ち込まれた手刀を見る。
そんな視界さえおぼろげで。
酸素が一気に枯渇する。
全身から力が抜けて、地面が迫って、でも彼女に抱えられて。
薄れる意識の中で最後に見たその横顔は、とても楽しげなものだった。

――閑話休題――

ふと気づくと見知らぬ天井、見知らぬ壁、見知らぬ装飾品。
少なくとも六華の活動圏内ではない。
家とか、部屋とか、そういうものとは無縁の生活だから。
そんな事を思いながら、ゆるゆると首を振りながらも記憶を掘り起こす。
ああ、そうか、つまり此処は。

「駄目ですよー、油断しちゃ。もし悪い人だったら大変な目に遭っちゃいますよ。お姉ちゃん心配です」
「油断も何も。顔見知りから唐突に貫手喰らうだなんて、誰が想像するのですか」

おなかを押さえる。
少し、鈍い痛み。

「…………」

彼女の部屋か。
館・美咲、小柄だが確か中学生。
ただ小柄とはいえ六華よりは上背があるし、能力者としても上。
逃げ出そうにも分が悪い。
仮に逃げたって、どうせ結社で顔を合わせるのだから徒労だろう。
中々……面倒な状況だと思う。

「それで。部屋に実力行使をしてまで連れ込んで何の御用でしょう、オネエサマ?」
「何の用って、最初に言ったじゃないですか、家に来てくださいって」
「……? 過程はさておき、こうして来ていますが。帰っていいですか?」
「……? もう帰ってきていますよ? ここは細氷さ……六華ちゃんのお家なんですから」

急に何か時間とか思考回路とかが飛んだ気がする。
もしかして肺を強打された影響で身体に支障でも出てるのだろうか。
それとも六華は目の前の人を哀れみの目で見るべきなのだろうか。
ああ、うん、なんだかよくわからないけど、わかる事もあるわけで。

「六華に家は要りません。六華の事を何と呼ぶも自由ですが、帰る場所は要りません」

ふらり、立ち上がる。

「貴女とは同じ結社の団員同士、それ以上は何もないでしょう」
「今まではそうでしたね。でも、今は貴女は私の妹で、私は貴女のお姉ちゃんです」
「…………妹?」
「そう決めました、さっきあの公園で」

年齢的にはそうだけれど。
別に、姉がほしいわけでもない。
というか貫手しつつそんな事を考えていたのか。
仮に姉とするならおそろしい姉だ。

「家族もなくて家も要らなくてと言いましたが、それって嫌なわけではないんでしょう?」
「確かに嫌なわけではありませんが」
「ただ、それが普通だったから特に困らなくてとかでしょうか」

その通りではあるけれど。

「もしそうだったら、六華ちゃんにも家族と家が在ってもいいと思ったんですよ」
「……いらないですし、困ってもいません」
「えー、でも無くても困らないなら、在っても困らないでしょう?」

論理的には合ってる。
でも六華的には間違ってる。
……。
めんどくさい。

「……いらない」
「別にね、毎日ここで寝起きして食事を一緒に食べましょうなんてことは言いませんよ?」

聞く。

「したいのであれば野宿でもなんでもしてていいんです……心配ですけど」
「早々遅れは取りませんが」
「さっきあっさり」
「あ、あれは……」

事実は事実だけど。
なんだか妙に腑に落ちない。

「ん、まあ、ただ帰る家があって、そこで迎える人がいるっていうのを知って欲しいんです」
「……そう、で、」
「――――あと私も妹が欲しかったですし」

……。
ちょっと頷きかけた、危ない。
最後の小声がなかったら頷いてた。
胸をなでおろす。
でも、気持ちはわかった。

「公園に帰ります」
「待っ、」
「ですが、たまには。たまには、こちらにもお邪魔しますね? 義姉様」
「あ、はいっ。そのときはちゃんと『ただいま』って言ってくださいね」

何だか勢いで義姉が出来たけど。
とりあえず何とかなるかな、と。
投げやりに考えて、でもまあそれも楽しいかもしれない。
家族ごっこみたいなもの。
でも、うん、六華にはちょうどいい重たさかな。

――――ただいま。
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細氷・六華

Author:細氷・六華
株式会社トミーウォーカーのPBW『TW2:シルバーレイン』のキャラクターブログです。
この手のゲームが好きでない方、なりきりとかが好きでない方はお気をつけくださいませ。

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